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【KADOLABO #018 Slowly Goes the Night/伊勢角屋麦酒】
Bottle-conditioned Belgian Golden Strong Ale/9%/750m
緒言
KADOLABO 018 Slowly goes the Nightは瓶内二次発酵によりコンディショニングを行ったBelgian Strong Golden Aleだ。
ISEKADO保有の野生酵母BOKEを用い、そのユニークな発酵プロファイルからBelgianスタイルの複雑なかつスムーズな高貴さをも感じさせる味わいを表現しようと試みた。
これまでBOKE酵母で製造したビールのアルコール度数は最高でABV 6.5%だった。しかし、伝統的なスタイルに則り、9%の高アルコールをターゲットとして、酵母の発酵能力の限界を試すとともに、その限界の実現のため、ベルジャンスタイルに典型的な発酵中に加糖する方法を取り入れ、新たな醸造アプローチを試験する場ともしている。
瓶内二次発酵とは、瓶に充填した後に二次発酵を生じさせる製造手法のこと。発酵可能糖分と酵母を残したまま、ビールを瓶に充填することで、再発酵を生じさせる。これによりビールへの炭酸づけと瓶内の酸素の除去を行うことができる。酸素はビールの劣化を進めるキーファクターであり、これを瓶内から除去することで日持ちが良くなる。ベルギーの伝統的なスタイルのビールは瓶内二次発酵が行われていることが多く、これは賞味期限の長さと関わりがあるのではないかと推測する。
炭酸づけという目的においては、ラガービールの醸造でしばしば行われるナチュラルカーボネーションと近しい。
しかし、容器内の酸素の除去という点においては、瓶内二次発酵に強みがある。ナチュラルカーボネーションは発酵あるいは貯酒タンク内で行うため、容器に充填する際に溶存酸素を増やすリスクを孕んでいる。
また、多くの瓶内二次発酵では、発酵温度が高い酵母を使用する。気体の液体への溶解性は温度の上昇とともに下がる傾向があり、20度条件下でビールにふさわしいガスボリュームを実現するためには約4barの容器内圧力が要求される。日本国内で使用されているステンレス発酵タンクの多くは2bar程度の耐圧設計のものが多い。そのため、発酵タンクでガスづけを行う、ナチュラルカーボネーションの方法をそのままエール酵母で行うのは難しい。一方、ビール瓶は耐圧性が高く、4bar程度ではびくともしないので、発酵温度下で必要なガスづけを行うことが可能なのだ。
今回発酵を担わせたBOKE酵母は2年前に採取した弊社保有の野生酵母。東京 新橋駅付近に生えていた木瓜の実から採取した。この酵母はセゾンイーストと近い鮮やかな発酵プロファイルを持っている一方で、発酵度が低く、甘みを残してしまうのが難点である。
発酵度は約70%程度で通常のビール酵母に比べて劣っている。しかし、昨年実施した島津製作所との共同研究において、通常のビール酵母に比べてアミノ酸の消費量が多いことがわかった。その後、遊離アミノ態窒素(FAN)が多く含まれるように麦汁調製することで発酵度の改善が見られる。今後、再現性の検証を行う予定だ。
野生酵母はビール酵母に比べてアルコール度数が低い傾向にあるはずだ。それは、野生酵母の生息環境が、麦汁のような糖分に富んだ環境である機会は限りなくゼロに近く、高いアルコール度数の環境ストレスによる自然選択は生じ得ないはずだからだ。
それを見越し、ISEKADOでは野生酵母を使用するビールを高いアルコール度数に設計することは稀である。7%を上限と考えている。酵母の限界を超えて高いアルコール度数のビールを作ろうとすると、途中で発酵が停止し、糖分が残留した甘いビールになってしまうか、アルコール由来の酵母ストレスで不快なアロマ・フレーバーに満ちたビールになってしまう。
稀な例外として過去にKadoya Nouveauというビールを醸造した。これはBelgian Tripelスタイルをイメージして作ったビールで、発酵はKADOYA1に担わせた。アルコール度数は9%。過去の実績のないハイアルコールな設計だったが、時間をかけて、完成させた。
KADOYA1には意外にも高いアルコール耐性があったようだ。大量の糖分を代謝させることで、これまでにない強い発酵プロファイルの仕上がりとなった。KADOYA1の特徴香といえばバナナ様のエステルとクローブ様のフェノールだったが、白ブドウのような香りが出てきているのが興味深かった。
BOKEでは最大アルコール度数6.5%までしか醸造を行ったことがない。KADOYA1のようにアルコール耐性があることを期待しつつ、今回の試みに使用した。
ベルギーではハイアルコールのビアスタイルが数多く存在しているが、その醸造法には学ぶべきところが多くあると感じている。
ベルジャンスタイルのハイアルコールの淡色ビールの多くは、キャンディーシュガーを使用している。
キャンディシュガーは精製されていない砂糖を煮詰めて作る転化糖だ。煮詰める際に生じるカラメル化およびメイラード反応の度合いにより、色味・風味の異なるさまざまなキャンディシュガーが存在する。色が濃くなればなるほど、単なる転化糖に比べて奥行きのある味わいを作り出す。
通常ハイアルコールのビールを醸造する場合、より多くの麦芽を使用することで、色味は濃い黄金色から琥珀色に近づき、麦芽由来の強い風味が生じるが、麦芽の一部を淡色のキャンディシュガーで置き換えることによって、色味を明るく、かつ麦芽の風味を抑えることができる。Tripelスタイルのビールは麦わら色からライトゴールドカラーのものが多いが、10%近いアルコール度数にも関わらず、ビールの色味がこうも明るいのは、キャンディシュガーの貢献があるはずだ。
キャンディシュガーの主となる糖質は転化糖、すなわちフルクトースで、酵母にとっても資化しやすい糖分だ。他の糖質に比べて、ピルビン酸回路の後の段階に入るため、代謝までの反応回数が少ない。
高いアルコール濃度下で糖分を資化するのは、酵母にとってストレスになるが、その資化する糖質がマルトースではなくフルクトースであれば、いくらかストレスを抑えられると考えられる。ハイアルコールビールの醸造に適した糖質である。
キャンディシュガーは仕込みの際ではなく、発酵中に加えられることが多いそうだ。そうすることで麦汁の初期比重を低く抑えることができ、酵母が対数増殖期を終えるまでの期間の浸透圧ストレスを軽減することができる。
こういったベルギーのハイアルコールビールの醸造アプローチは、近年ハイアルコールのヘイジーIPAの醸造に応用されている。大量のドライホップの後ろ支えをするベースビールとして、高いABVとそれにふさわしいボディ、麦芽の風味を抑えた明るい色味、酵母由来の不要なストレスキャラクターの抑制が求められる。それを満足させる方法になり得るということだ。
加えて、ドライホップと糖の添加を同時に行うことで、ドライホップ由来の溶存酸素の増加を防ぐと共にバイオトランスフォーメーションによるホップキャラクターの多元化、ポリフェノールの排除が期待できる。
今回の醸造においては、キャンディシュガーは使用せず、発酵中にグルコースとフルクトースを添加し、アルコール度数を高めるという方法を取った。酵母の特性上から強い発酵プロファイルと高い最終比重が予想されたため、精製された資化しやすい糖質を使用してて、カラメル化およびメイラード反応由来のボディは排除している。フルクトースだけではなくグルコースも使用したのは深い意図はない。糖質の違いによりトリガーされる香気成分を生成する反応が異なるため、発酵由来の香気成分に厚みが出ることを期待している。
以上のように、KADOLABO 018 Slowly Goes the Nightでは、瓶内二次発酵、野生酵母のアルコール耐性の調査、発酵中の糖質の添加による影響の3点を試みていた。特に、最後のものは実用に差し障りがなければ、すぐにでもISEKADOブランドのHazy IPAの醸造に活用したい技法である。
価格 : 4,400円(税込) |
ポイント : 44 |
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